KTTその十五

私は小学生の頃、自家中毒がひどく、食事を度々戻すので、その度に、主治医の松浦先生に来て貰い、ブドウ糖の静脈注射して頂いたお陰で、70年も生き長らえることが出来た。当時は勿論車も無い時代で、先生は4kmの砂利道を、自転車で来られたのだった。それにしても、ブドウ糖の効能は劇的で、ドッと血液が注射器に逆流し、それが再び、じわりじわりと血管に流れ込む頃には、気分が良くなる程の効能があった。

そんな昭和の時代、松浦先生にお茶を出し、感謝の気持ちを述べ、四方山話に移行する頃、先生がポツンと言われた「或る言葉」を、私は半世紀もの昔乍ら、丸で昨日の様に、鮮明に覚えている。「お宅は広い屋敷が有るので、いっそ”隣の家”をも買収したら?」と。
それは我家一同が「思いも依らなかった、驚天動地の言葉」であった。それから数年後、空き家だった隣の家に、K氏一家が転居して来たのである。あの当時から早数十年!昨日も今日も、我家の目と鼻の先に在る隣家から、毎日の様に何か石を砕く「カチ-ンカチ-ン」と、耳障りな音がする。