犬その四

悲劇と言うものは突然に訪れるものである。我が母が近くの店(現栄屋)に買い物に出掛けた時の事だった。ポチが鎖を引き摺って、母に付いて行った。母は来なくて良いと制止したが、犬に分る筈がない。県道を横断中、三輪トラックに轢かれて、即死した。私は口から血を流しているポチの亡骸に縋り付き、人目も憚らずワーワーと泣き叫んだ。60年もの昔の事故乍ら、あの日の出来事は、今でも走馬灯のように蘇る。そして今も自宅裏の柿の木の下に眠るポチに時々囁き掛ける。さぞや痛かっただろうねと!