バイオマスその九

石貫に家を建てた氏は、類い稀なる特殊技能の持ち主であった。例えば自動車道路の脇に生えた灌木の枝が、車の走行の障害になっている場合、その枝は切除せねばならない。然し往来が激しい県道を通行止にして作業するには、片側交互通行等の処置が必要で、警察を交えた大掛かりの作業となる。処が氏に依頼すれば、それらが全く不要となる。何となれば、彼氏は命綱とチェーンソーを腰にぶら下げて、スルスルとその木に登り、文字通り「ジャーン」と一閃!バリバリと大きな枝が、県道に落下、あっという間の軽業で、周りの者は、呆気に取られたようで、思わず拍手が起きる有様だった。

尤も、唯一困ったことがあった。それは沖縄出身の氏の奥さんが、目の前に有る、繁根木川に掛る橋の上から、分別されていないゴミを、バーッと川面に捨てることであった。