パラドクス

昔から、寒冬の年は米が良く出来ると言われていた。それは害虫が生き残る確率が低くなるからとの理屈である。尤も私はそのことを実証した経験も無いし、天候や気温と作柄の因果関係についても詳しくない。いずれにしても殆どの昆虫は冬季に死に絶えるが、卵の形で生き残るのも居るから、その通りなのかも知れない。一方では“豊凶”を左右する要素は所謂“地勢”で、冬場の気候等は関係ないという人もある。
それにしても近年は暖冬が多かったが、今年は久方振りの寒冬で、厚着をしないと屋外での作業が大変辛い。従って今冬は裏山から枯れ孟宗竹を伐り出し、焚き火をして暖を取る日が多かった。竹は一年で成長が止まり、数年経てば自然に枯れて、若竹と世代交代する。処が我が裏山の孟宗竹の多くが立ち枯れをしているので、伐採して火を付けたが一向に燃えない。原因は誰かが山に散布した“竹枯らし”の所為らしい。何故ならば、自然死の場合は葉が落ちて、乾燥状態となるので良く燃えるが、薬剤で枯れた竹は水分を含んでいて中々燃えないのだ。従って今冬は例年にも勝る大量の孟宗竹が屋敷内に溜まり、用途が無く処分に困っている。
そんな冬の仕事がもう一つ有る。猪対策である。昨年は夏場の米の登熟期に、川を渡って来た猪が私の田圃に侵入して、稔り掛けた稲穂を散々食い荒した挙句、背中に付いたダニ落しの為に寝転がり、辺り一帯の稲を滅茶苦茶に踏み潰した。お陰で私は稲刈を断念せざるを得なくなったので、今年こそはその轍を踏むまいと、冬の間に2週間もの時間を掛けて、猪避けの竹柵を設置した。幸いにも、材料の真竹は近くの山に無尽蔵に生えているので、ふんだんに使える。然し竹は真直ぐなのが普通で、田圃の畦の曲線にきっちり合わせるのは大変難しい。所謂多角形にするのが関の山なのである。
そんなこんなで竹柵が漸く完成してほっとしていたら、思わぬクレーム発生!隣地の所有者K氏が、自田にはみ出している竹柵を“撤去せよ”と抗議に来られたので、精魂込めて構築した竹柵は、文字通り“一夜城”と相成った。私はどうせ荒地なので、地主の迷惑にはならないと思ったが、甘かった。考えてみれば、嘗てその土地は、K氏から私に「耕作しないか」と持ちかけられたが、断った経緯の田圃だった。狭くて形が悪い田圃は手間が掛かる割りに収量が少ない。私はあの当時の意趣返しを食らったのである。
実はそんな事も有ろうかと、昨年暮れには新田を探すべく、知人のM氏の案内で態々三ッ川迄行ったし、片白の南隣のクウノ内にも行った。然し前者は日当たりが悪く、後者は谷が広くて日当たりは良いが、区画整理が成されておらず、不正形の狭小田圃がぎっしりで、トラクターの進入路がないばかりか、上流の水源地は何とゴルフ場ではないか!ちょっと浮気をしてみたが、やはり片白の古女房が良かったと、反省したようなものである。終わり