ダニ

ダニと云えば「社会のダニ」等と、人間に関しても有害イメージが強いが、通常は野生動物を寄生対象としており、中には人間から吸血して被害を与えるものもいる。 普通の日常生活でダニの寄生を受ける機会は多くないが、野外行動中にこれらの被害を受けると、吸血時のダニの唾液物質によるアレルギー性の咬症により傷口が化膿したり、稀にはウィルス等による、重篤な感染症を引き起こすこともあるとか。それを裏付けるかの様に、今夏の低温多雨とも重なり、ダニの発生が顕著だったようで、私は半年間もの長期に亘り、ひどい目にあった。と言うのも私は毎夕刻、欠かさずに犬の散歩をする。我家の犬はとても綺麗好きで、余程のことがなければ、繋がれた状態で大小便をすることは無い。従って一年365日、夕刻になると必ず、私に向かい吼え始める。犬に食事と散歩のどちらが好きかと問えば、迷わず散歩だと応えるだろう。何故なら、食事を与えて鎖を解けば、餌などには見向きもせず、一目散に走り出すからである。
然し犬と散歩すれば、否が応でも路傍の草叢に、足を踏み込むのは避けられない。と言うのも、犬は散歩中に周りの景色など見ているのではなく、道端に残る他の犬の匂いを一心に嗅ぎ取り、その場所に自分も放尿・脱糞する(所謂マーキング)習性があるからだ。従って飼い主の私は、犬に引き摺られて、否応も無く路傍の叢に踏み入らざるを得なくなり、必然的にダニの被害に遇うことになる。
ダニの咬傷の特徴は、蚊と違って刺された時には然したる痛みや痒みは無い。然し時間が経つに連れて皮膚が赤くなり、痒みが強くなり、下手に掻いたりすると、汁が出て赤く腫れ上がる。従って、副作用もあるが、痒みを抑える為には、特効薬のステロイド(副腎皮質ホルモン)を塗布するしかない。私は今夏、足の脛に10箇所以上の見苦しい咬傷を患い、毎日せっせと、傷の手入れをせねばならない、実に困った事態となった。
そんな厭な季節も漸く終わりを告げ、早師走ともなれば、変温動物の殆どは死に絶えるか、冬眠状態となり、やっと安心して叢や山にも立ち入れるようになる。そんな初冬の或る日、懇意のKさんに、道向かいの墓山のクヌギ(椎茸の原木)を数本伐採して貰った。Kさんは80の齢を数える高齢で耳が遠いが、チェーンソーワークの達人である。処がマフラーを無くしたチェーンソーを使って伐採するので、凄まじい爆音で耳がおかしくなり、仕方なくKさんと離れて、山道の草刈作業をしつつ、墓山の頂上に登った。すると山頂にある25基の墓石は、夥しい枯木枯葉に分厚く覆われて、地面は全く見えない有様。私は仕方なく一時間近くを掛けて、松葉掻きを使い、膨大なバイオマスを除去したのであった。
それにしても、近年“墓”に関する国民の考え方が、大きく変化しているように思う。と言うのも都市部では、墓地用地が決定的に不足し、自宅近郊での新規建設は、例え納骨堂であったとしても、非常に難しくなっている。
一方田舎では、旧来形態の墓地(夫婦単位の独立墓石)の管理が難しくなりつつある。それは我家を含めて多くの墓地が、自宅から離れた山上に建設されているからだ。昔は薪炭燃料を取りに山に行くのは日常茶飯事で、墓守も容易だったが、今や盆正月位しか行かなくなった。従って墓地の形態も変えるべき時が来ているのだ。鹿児島県では、農道脇の土手に墓地が点在していたが、理想は“屋敷内墓地”だろう。然し私は、親戚から多額の支援を得て、母死去後に建立した墓に埋葬されるしかない。其処は、アパートと公民館に挟まれた山裾の一角で、旧来の墓地の真下に位置しているのだ。
それにしても人間社会に「社会のダニ」等と呼ばれる連中が居ることを思えば、ダニの嫌らしさが良く分かる。私は課長昇格後、上司の命令でゴルフをせざるを得なくなり、レッスンを受けた男がやくざと知らなかったばかりに、まがい物のクラブを高額で売り付けられた。何となれば、大勢の部下が見守る中、そのウッドで栄えあるアウトの1番を打った処、何と何とクラブの先端が外れて、ボールと一緒に飛んでしまったからである。終わり