はやぶさ

終映も間近に迫った先日、映画“はやぶさ/HAYABUSA”を観に行った。この映画は小惑星探査機の実話に基づいた作品で、今後米国でも上映されるとか?はやぶさは今から遡ること8年半前の2003年5月9日、多くの人々が見守る中、鹿児島県内之浦宇宙空間観測所よりM-Vロケット5号機により打ち上げられ、搭載された「ミューゼスC」に「はやぶさ」という愛称が冠せられ、惑星間宇宙への旅に出た。そして実に7年後の2010年6月13日に、小惑星“イトカワ”で採取したサンプルを、オーストラリアの砂漠まで持ち帰る、世界初の快挙を成し遂げたのである。
映画は2002年、文部科学省宇宙科学研究所(現在のJAXA)の対外協力室室長だった的場泰弘(西田敏行)が、小惑星探査機「ミューゼスC」について講演するシーンから始まる。当時、小惑星探査機についての世間の関心は極めて薄かった中で、的場の講演に感動した北大出身の所謂“リケ女”水沢恵は、JAXAの研究生として採用される。そして、広報と雑用を担当し、宇宙の出来事を見学者に出来るだけ分かり易く、然しそれでも専門用語を乱発しながら早口で解説する。一方はやぶさは、目指すイトカワに着陸するも、姿勢が定まらず通信も途絶して、その後暫く行方不明となった。当然ながらJAXAは“税金の無駄使いだの非効率だの”と、マスコミや国会などから散々非難される。そんな逆風下の最中に、はやぶさは様々な困難を乗り越えて、目出度く地球に帰還するという筋立てである。
私はリケ女ならぬリケ男であるが、その切欠は石貫小学校5・6年の担任だった澤田先生である。1年から4年まで女先生が担任だった後に、初めて担任となった男性の澤田先生は、特異なキャラクターの持主だった。やや酒乱気味で、屡特大のマスクをはめていたのは、酒酔い運転で自転車から転倒した時の、顔の傷を隠す為だった(マスクを外した後の顔には大きな絆創膏が張ってあった)。澤田先生の専門は理科、それも屋外授業が多かった。幾度か見せて貰ったのが、運動場での花火の打ち上げ実験である。火薬の材料は砂糖と硝酸だったと思う。炭化水素の砂糖に、硝酸基が結合すると爆発的な燃焼を起こす。まるでロケット発射の瞬間のように、オレンジ色の火炎が高々と吹き上がると、クラスメート一同、大歓声を上げた。
私はこの実験を切欠に物理や化学に興味を持つようになり、アルミ製の鉛筆キャップにマッチ棒の先の火薬を詰め、歯で噛んで口を確り閉じ、外からローソクで熱してペンシルロケットを発射したり、投網の錘の鉛を溶かして型に入れて成型したりして、文系が殆んどの我家では珍しく、理系への道を歩み始めた。勿論、大学も機械工学専攻である。然し4年次の卒業研究で、私は水力学教室に割り振られた。従って熱やエンジンとは殆んど無縁の、パイプを流れる水の挙動解析という大変地味なテーマに取り組むことになり、ロケットの発射実験のような、ワクワクドキドキの体験もなく、就職先も冷蔵庫やエアコンと言う、云うならば“大人しい機械”を設計する技術者になった。
その私は、現在農業をしているが、農業には各種の農機具を使用する。秋の主役は、稲刈に使用するバインダーと、脱穀に使用するハーベスタである。ところが、この両者は今年もトラブルを起こした。前者は昨年と同じ締結不良で、刈り取った稲を束ね損ね、バーンとばら撒く。従って手作業で括り直さねばならない。とうとう最後は修理の為にメーカ行きとなった。それに比べてハーベスタは、絶好調だったのに、最後の日に脱穀不良のトラブルが発生した。原因は架け干しの乾燥不良である。今秋は「女心と秋の空」を地で行くような不安定な毎日で、架け干しの稲は乾燥不良。私が目指す「3日連続の晴天」が未だに到来しない。架け干し10日というように、長く掛ければ良いと言うものではなく、適期に脱穀するのが一般的なのに、今年はタイミングが悪く、稲刈後やがて一ヶ月にもなる。こうなると穂先が千切れたり、猪に喰われたり悪い事が起きる。
私は思う。一年の計足る収穫の日位は、土日といわず平日に休暇を取ってでも、来て欲しいと懇願すべきだった。私の脱穀日は10月27日木曜日。当日は5日間連続の雨無しに続く快晴の日で、カラカラに乾いた稲束を、これでもかこれでもかとハーベスタに投入したが、只一度のトラブルも無く、半日で3枚の田圃の脱穀を済ませた。然し悲しき哉“はやぶさ”と違い、もう二度と“あの日”は戻って来ない。終わり