モラルハザード

私がウーフホストに加入したのは2004年11月なので、やがて6年になる。最初に我家に来た外国人は、コロンビアの美人女性グローリアだった。コロンビアは有名な誘拐国家で、近年は半ばビジネス化していて、日本人も過去何度か誘拐された。彼女はそんな自国に愛想を尽かしたのだろう。ジャマイカの大学に留学して英語を学び、日本で農業体験をしてから、有機農業で有名なコスタリカに渡り、それを実践すると言っていた。私は“その志や尊し”と惚れ込み、次の島原のホストに向かう日の朝には、家内共々態々熊本港まで車で送り届け、エールを送った。
続いて来たのは、色白で大柄なオーストラリアの女性カトリーナだった。時節は初冬で、手が悴む寒さの中、大量に採れた大根を二人で川で洗い、千切りして“切干大根”を作り、大きな笊を沢山並べて干したのを、昨日のように覚えている。その当時、偶々我家に来たミカン農家の友人が彼女に一目惚れして、半ば強引に2~3日間自宅に連れて行った。
以来今日に至る6年の間に、日本人男女29名、外国人男女34名のウーファーが我家を訪れ、各々数日間滞在した。来訪者を年別に見ると16,17,11,11,5,3名となり、年と共に減少していることが分かる。今年はたったの3名なのだ。これには様々な要因が考えられる。
加入当初は、ホストリストも冊子となっていて、ウーファーはその一覧が可能だった。勿論ウーファーからホストへは、直接(受け入れ打診の)メールや電話が来るので、私はそれに返事すれば良かった。詰り両者の直接コンタクトが可能だったのだ。そして毎月末、事務局へ前月のウーファー受入状況報告をすると、事務局長のHさんから丁寧な返事と、問題点に対する適切なアドバイスが来た。勿論事務局も、全てのホストやウーファーからのメールに返事を出すのは大変だったろうと思う。「毎日髪を振り乱して返事している」とのメールもあった。中には会費を払わずウーフする不法者もいて、とても神経質になられた時期もあった。だからかも知れないが、近年ウーフの仕組みが大きく変わった。現在は全ての作業が、同会のホームページにアクセスしてパスワードを入力し、細かな字でびっしり書かれた規約にサインし、必要事項をインプットする仕組みである。一方受入報告の要請は殆ど来なくなった。私が類推するに、ホスト・ウーファー両者が増大の一途を辿り、人を介した情報伝達が不可能となり、システム化を図ったのだろう。
これは何処の世界にも起きる変化である。事業が立ち上がる初期過程では組織も小さく、小回りも利き、互いに顔が見える心地良い関係が構築される。しかし組織が次第に大きくなり、個人の力でハンドリング出来なくなると、システム化が進行し、細かなルールが沢山ある官僚的組織に変貌する。問題はこの変化を利用(悪用)しようと考える者が出ることだ。
今日起きている最大の問題は、ウーファーの急激なモラルハザードである。2年程前に来た韓国女性がその奔りだった。私を菊池まで迎えに来させた上に、滞在中は農作業は形ばかりで済ませ、連日のように日本の友人と熊本市内観光をした。又最近ドタキャンも急激に増えた。それも当日である。私は仕事の段取りをして待っているのに、平気でキャンセルする。その多くが外国人カップルである。きっと数箇所のホストにダブル・トリプルブッキングをしているのだろう。昔“悪貨は良貨を駆逐する”と習ったが、ウーフ制度にも言える様だ。
私は思う。人間は欲が深い。何事も上手く行き始めると欲望も肥大し、次第に周りが見えなくなる。そして最後には墓穴を掘る。然しそれは自分とて同じなのかも知れない。あれもこれもと手を広げ過ぎた。今年限りでウーフホストは退き、来年以降は身の丈に応じた仕事をコツコツやろうと思う。終わり