農機具

農業において重要な物に、農機具がある。これにはトラクタの様な大型機械から、剪定鋏のような小物に至るまで実に種々雑多、数え出したら限がない。私は仕事柄農産品フェアとか、ホームセンタの特売とかが好きで時々行く。大抵それらのチラシには、目玉商品が幾つか載っている。昔、未だサラリーマンだった頃の事である。あるホームセンタの週末特売チラシに、アルミ製の脚立が出ていた。確か5脚限定で、定価の半額程だった。私は鉄製の脚立を持っているが、それは頑丈だが重くて手軽に持ち運べない。是非欲しかったので特売日の朝、開店30分程前にその店に行った。処が既に5名以上の人が並んでいる。その全員が年配の男性である。私はその一人に聞いた。「何を目当てに、並んでいるのですか」と。その人は答えた。「皆脚立が目当てですよ。もう私までで終わりで、貴方は買えませんよ。わし等はもう1時間以上前から並んでいるから」私は驚いたが後の祭りだった。その後現在に至るまで、アルミ脚立の特売は目にしていない。
別の特売日にはこんな事もあった。私の前の中年女性が、トイレットペーパを買ってレジに出した時、隣のレジ係の女性が声を上げた。「ちょっと、その人は2回目で違反よ!」よく見ると、周りに居る客は、皆判子で押したように、同じトイレットペーパだけを抱えている。私はその時やっと事態を理解した。朝並ぶ客の殆どは、特売品のみを買いに来ているのだと。そしてあわよくば、お一人様1個限りを守らず、何度も店に出入りして、買い占めようとしているのだと。私はその時以来、特売品を買うのは半ば諦めている。
そんなこともあって買い揃えた農機具で一番使うのは、やはりハサミ・カマ・ナタ・ノコ・クワ・スコップ等である。然し、特売品の品質は決して一級品とは言えない。ハサミやノコは直ぐ切れなくなるし、カマやナタは刃こぼれし易い。チェーンソーに至っては、トルク不足で大きな木は切れない。勢いそれらは早々にお蔵入りとなって、普段使う農機具はやはり「ちゃんとした値段」で買った物に偏る。
「処が」である。私は之までに、剪定ハサミ、ノコ、カマ、ナタを夫々1~2本、山仕事の時に無くしてしまった。それは、こんな時に起きる。山にハサミとナタとノコを持参したとする。当然一度に3種類は使わず、目的に応じてそのどれかを使う。その間は他の農機具は傍に置いておく。処が、山には落ち葉が多い。一寸した隙にそれらの農機具の上に落ち葉が被さったら、もう終わり。幾らその辺りを探しても殆ど見付からない。何となれば、それらの農機具と落ち葉の色はほぼ同じ。詰り保護色になっているのだ。それからである。私は普段良く使う特売品以外の農機具には、赤布を付ける様にした。そうすれば、山で無くしても見付け易いからである。
そして私はその赤布のお陰で、今年の春先竹伐りに持参したナタ鎌を、先日偶然山で見付けた。それは何と見付け易い様に、態と立ち木の根本から2m位の所に打ち込んでいたのだった。然し数ヶ月の間、風雨に晒されたそのナタ鎌の刃は、聊か錆が出て、以前の切れ味は無くなっていた。そしてそのナタ鎌も、特売品ではない上等の品物だった。
私は今のところ、無くしても余り惜しくない特売品を持参する以外に、山での決定的な紛失防止対策を見出せていない。終わり