新幹線

博多~八代間の九州新幹線工事が今真っ盛りである。当玉名市でも北西から南東に横切る形で、今其の沿線の至る所で建設工事が行われている。私の家からも橋脚が見える。そして西側にある小岱山(501m)を縦貫する10kmのトンネルは、つい先頃貫通したとのことだった。然しこの新幹線は、様々な点で地域に大きな影響を与えつつある。
数年前工事開始に先立って、現地説明会が実施された時の事だった。私の土地は山林がほんのちょっと掛かるだけであったが、一番驚いたのは地域住民の反応だった。立ち退きを迫られた人が反対するのなら分かるが、事実は逆だった。僅かな差で立ち退きを免れた人が、自分の屋敷を通るようにルート変更を陳情したのである。我田引水ならぬ“我田引鉄”である。理由は多額の補償費を貰って、別の場所に引っ越した方が良いからである。勿論こんな事が出来る筈がない。
然し其れから数年後の現在、立ち退いて引っ越した家々が並ぶ一帯は一際“威容”を誇っている。親子2人の家が、料亭とも見紛うばかりの豪邸を建設している。何でも補償費は全て建設費に使わなければならないとか。果たしてこんな家に住んで幸せだろうか?等と“要らぬ事”を考えてしまう。然し影響は其れだけに留まらない。トンネル工事のお陰で山の谷川が涸れ、山間の水田では米が作れなくなった。又川の水系が変わり、農業用水に多大の影響を及ぼしている。要は“大方の水がトンネル出口に集中する水の偏在化現象”が起きているのだ。この事は地域の人々の“心”にも亀裂を生じさせることになる。得をした人は黙っているが、損をした人は不平不満を云う。これは、先祖伝来“仲良く”暮らしてきた人々を“引き裂く”事にもなる。
私も何度かクレームをつけた。ある時は、近くの川の水量がトンネル完成後激減すると聞き、工事担当者に説明を求めた。此処は蛍の名所でもある。彼氏(技師)は、我家に大きなトンネルの図面を持ち込み、専門的用語を駆使して、滔々と自説を展開した。結論は“どうしようもない”との事だった。然し私は納得出来なかった。現在の土木技術を以って、河川の水量コントロール位出来ない筈がない。要は予算や工期の面から遣りたくないのだ。其れならそう云えば良いのに、回りくどい説明をする。
私は別にも云う事が有ったが止めた。それはアパートの住人から「TVの映りが悪くなった」との苦情が相次ぎ、何度もアンテナ工事やブースタ増強をさせられ、最後はアンテナを別の場所に移設し、多大の経費が掛かってしまった。然しこれを云っても、新幹線工事の影響だと“証明”出来ねば、保障は得られまい。
私は思う。科学技術の発展は、人々に“幸福”を齎すか、“不幸”を齎すか分からないと!