手相
手相と言うと、占いの中でも老舗に属すかもしれない。私は元々迷信や予言を信じない性質で、そんなものにはとんと縁が無かった。然しあの時だけは“魔が差して”いた。場所は静岡市の駿府公園、彼女と一緒の時だった。多分彼女が「見て貰いましょう」と言ったのだと思う。私も何気無く占い師に手の平を見せた。私は自分の手の平を“平凡そのもの”だと思っていた。然し占い師の言葉は全く意外だった。「貴方の手相は大変珍しい。生命線がこのように走っているのは、西尾末広氏にそっくりです。」「貴方の人生は波乱万丈でしょう。」そして「この人とは一緒になれないかも知れない」と。彼女はとても悲しそうな顔をしていた。“西尾末広”とは元社会党で、後に其れと袂を分かち、民社党を創立した政治家である。私は大変驚いた。占い師が発する言葉が“激烈”だったからである。
私は其の女性と2年近く付き合った。彼女は教師の子女で、小柄でとても大人しい人だった。ある時、何処かで二人で月見蕎麦を食べた。其れが悪かったらしく、私は翌日から腹痛で2日間休暇を取った。そして出勤したら皆に冷やかされた。どうも彼女も同じく1日休んだらしく“2人の関係”がばれたのである。私は当時軽自動車を持っていたが、彼女は白のカローラ(初代)を持っていた。ある時、其の車で箱根をドライブした時、カーブで出会い頭に黒の大型車と正面衝突した。幸い双方共徐行中の為破損は軽微だったし、相手の車は古かったので賠償を免除して呉れた。然し、私は其の時初めて彼女のお宅に伺い、親御さんに謝った。後述略
彼女は私との結婚を望んでいたが、私は踏み切れなかった。理由は彼女が余りに華奢で(子供が産めるか)不安があったからである。体重は36kgしかなかった。ある時の事である。仕事中、彼女の親友のIさんが私の所に来て詰め寄った。「貴方は卑怯よ!彼女があんなに思っているのに、煮え切らない態度で、九州男児らしくないわよ!」と。私は言葉に詰った。そして遂に“思っている事”をしゃべった。Iさん曰く「体は小さくても彼女は健康よ!」それ以上私は何も言えなかった。その後私は彼女と別れた。しかし其の後も色々あった。ある時は彼女の妹から「思い直せないか」という主旨の手紙も来た。然し“寄り”は戻さなかった。後述略
私は今不思議に思う。あの時何を根拠に“不安”に思ったのだろう!若し“不安”を持たなかったら、今頃は「全く別の人生」が展開しているに違いないと!それにしても「手相」は恐ろしい。