若しかして

「若しかして!」で始まる小林幸子の歌は、素敵な歌である。新入社員時代の上司だったM氏は、今も尊敬する素晴らしい人であるが、独特の考え方をされる方でもあった。当時は職場単位で毎年旅行をしていた。その場合大抵観光バスを借り切り、一泊二日位の行程で、近隣の観光地等に出掛けるが、M氏はいつも「若しかして」を心配されていた。つまり「若しかして、バスが事故に遭い崖下にでも転落したら、会社の業務は完全にマヒし、大変なことになる」との心配だった。殆どの人が一笑に付すようなことであるが、私はその時「その可能性もゼロでは無いな!」と思った。と言うのも、私は父が亡くなってから結婚するまでの約15年間、母一人子一人であった。然も母は慢性高血圧で「昨晩は胸が苦しくて、若しかして死ぬかと思った」と言う様な台詞を何度も口にしていた。その時は、それこそ一笑に付していたが、余り頻繁にその様なことを聞かされた為、無意識に「若しかして天涯孤独になるかも!」との恐怖が私の脳内にインプットされた様だ。
処が、幸いにもその杞憂は当たらず、私は母が亡くなる前に結婚して子供が出来た。然し今度は別の恐怖が生じた。つまり大抵の場合、マイカーで、一家5人(夫婦+子供3人)で出掛けることが多かった。そんな時突然、私にM氏の思考回路が作動し「若しかして、自分が居眠り運転して対向車と衝突でもしたら、一家全滅になる」と本気で心配した。そして私が行き着いた結論は「危険分散」であった。詰り、出来るだけ一家全員でドライブをしない。どうしても仕方ない時は車2台に分譲する。飛行機に乗る時も、一家全員が同じ飛行機に乗るのは出来るだけ避ける。これは後で知ったことであるが、理に適った考えだったと今も思っている。
欧米には「一つの籠に全部の卵を盛るな!」という意味の格言があるとか。現在では、子供も独立して夫々別居している為、一族全員が行動を共にする機会は稀となったが、何が起きても不思議ではない世の中である。家族が一同に揃い、楽しい時間を共有することは、勿論理想ではあるが、ワゴン車でドライブしたり、海外旅行したりする場合、そのリスク管理もちゃんとすべきだと思っている。
追伸:最近自宅の雨漏りの修理の為、屋根に登った。すると目の前の壁に梯子が固定してある。この梯子は、子供3人が二階で寝ていた20年程前、二階の寝室のベッド横の窓から屋根に下りる為に、私がその当時設置したものである。万一の時も下屋の屋根まで逃れさえすれば、下に飛び降りても足の捻挫位で済むし、下から梯子を掛けて助ける事も出来る。家が火事になり、二階で逃げ遅れた子供3人が焼死する。これは、現実にニュースで見聞きする事例にもある。用心に越した事は無い。以上